'4. 詩' Category

数える

幸福ないくつかの事実と
哀しいいくつかの可能性と
恐怖にも似た推測や
ふと笑ってしまうような諦観

きみの言葉を忘れないように
いくつかの幸福を忘れないように

守る

穏やかに息をつけた日は
そのささやかな何かを
壊さないように
揺るがないように
そっとしておかねばならない

たとえば物語の世界へ
たとえば深い眠りへ
閉じ込めておかねばならない

哀しみにほど近い位置にいる
にんげんの
これは精一杯の抵抗だ

ドアの鍵は閉めて
窓は開け放して
音のない場所で
ただ文字たちに囲まれている

その本棚は居心地が良さそうだね
眠りに落ちよう

徒歩より

左足を前に出した次に右
交互に動かして少し、前に進みました
無心、自分の親指を見つめ歩きました

その爪にこびりついてる黒く、泥のようなもの
洗っても洗っても落ちない
指ごと切り取る勇気なんか
どうやら持ち合わせてはいないわけで
それが幸福なことなのかはわからない

真下に黒くあった影は次第に薄れて消えてゆき
親指を見ていた、俯いていた頭にそのつむじに
雨粒のひとつ落ちてきた
それは思うに大きな粒
わたしはようやく天を仰ぎ
わたしはようやく源を知り

喉はすうと通り視界は広く
ああもうすぐにでも躓いてしまうだろうと
小さな小さな石ころにさえ負けるだろうと
予想されるたくさんのマイナス事項が頭を埋めて
しかしまた新たに天より至るひとつぶ
そしてまたひとつぶ
口を大きく開けてばかみたいに開けて
呼吸するごとにかなしみで肺が凍ったとしても

そうだ泣いているのではなく
そうだ叫んでいるのでもなく
そうだたとえ笑えなくたって
ただここに居るだけで
ただ歩いてるだけで
わたしは待っていることができ
わたしは探しはじめることができ
わたしは生きてることができる

左足を前に出して次に、右

感情による感情のための負傷

胸の中に住んだ生き物は

いくつもの棘を持っていたから

動くたびにわたしは

どこかしら刺されることとなった

血が足りなくなる前にと

思ったけど思っただけで

いつの間にか膝を抱え

棘を見詰めることばかり得意で

声どころか息も漏らせない

感情は単純なものなのに

どうしてひどく怖気づいている

きみと記憶と朝

きみがいない朝
つよく風を受け
口を開けて居た
上を向いて居た
空はそこに居た
何も言えず居た
わたしと同じで
気持ちを消して
ただあおく居た

口を開けて居た
空気流れこんだ
呼吸できて居た
涙ながれ落ちた
きみがいなくて
きみがいない朝
空がそこに居た
滲んでただ居た

消えてなくなれ
消してしまえと
何度も涙ぬぐい
涙ぬぐい本当は
きみが居た朝を
その柔らかさを
覚えてきざんで
忘れたくないと
なお空を見上げ
なお涙落とした