パセリ負傷

コラムではなくて、長い日記だ。 (00.09.01)


日記に書こうと思ったのだが、長くなったので、こちらに。
長く長くなったのは、気を紛らわせたいからに他ならない。

脱走は毎回のこととなっていた。
数日家にこもる日が続くと、パセリ(わたしの飼う黒猫)は確実にストレスをため凶暴になっていく。
わたしは、ベランダに洗濯物を干す際、いくらか、その脱走を黙認していたきらいがある。

午前三時、窓際で、名前を呼ぶと、ようやく脱走者は、にゃ・にゃーんと答えた。
焦っているような声だ。
わたしは不安になった。
脱走は二時間ほど前の出来事だ。そして一時間ほど前に、わたしは派手な猫喧嘩を耳にした。慌てて外に飛び出したのだが、そのときパセリは姿を見せなかった。
巨大なチャトラの猫が去っていくのだけ見送って部屋に戻ったのだ。

嫌な予感。いや、これは予感の域を越えてる。
迎えに行かなければ。
靴を履く時間も惜しい。

パセリは自力で部屋に戻れない。ベランダから地上に降りることはできても、登ることはできない。よって、脱走した場合、こちらから迎えにいかねばならない。
帰りたくなると、パセリはベランダのすぐ前、駐車してある車に隠れて私を待つのだ。

明らかに様子がおかしかった。
近くに私が行くまで車の下、安全な場所で待機しているのが常なのに、私の姿が見えた途端、こちらに駆けてくる。

抱き上げると、か弱い声で、にゃー、にゃーと鳴いている。
にゃー? にゃーー? 私は返事をする。
猫語はわからない。ただオウム返しに、繰り返す。
急いで部屋へ戻りドアを閉めると、パセリは腕の中から抜け出し、ソファへ。
毛並が乱れてる。

私はペット用ウェットティッシュで身体を拭いてあげた。
そして、そのティッシュには血がつくことになった。

パセリ、脱走で初の負傷である。

触ろうとすると、不機嫌そうな声を出す。
無理矢理調べる。それほどひどくはなさそう。
顔に引っかかれたような傷、背中に噛まれたような傷。
身づくろいを終えたパセリは、ベッドに移動。それから、動かない。

午前五時、眠りにつこうとしたが、パセリの傷が、この瞬間にも悪化しているかもしれないと思うと、なかなか寝付けない。ベッドの上で転々としつつ、いくつか悪夢も見たようだ。傷口にむらがる、虫の夢もあった。
忘れなければ。

ようやく朝になり、行き着けの動物病院へ車を走らせる。
動物のお医者さんは、パセリの傷を見て微笑んだ。

ああ、もう傷跡ふさがってます、大丈夫ですよ。

わたしはその言葉に、飛び跳ねんばかりだったのだが、パセリは帰宅後、また、微塵も動かなくなる。
その黒い毛の下から、新たに傷を発見した。
背中からお尻にかけての、いくつもの裂傷。診てもらったのは、そのほんの一部だ。
パセリはベッド上の低位置で、座り込んでいる。そこに行くのも、あまりにもゆっくりとした動きだった。痛くないように。痛くないように。
わざと大きな音を出しても、振り向かない。名前を呼んでも、ほんの少し、耳を伏せてしまうだけだ。

猫は、痛いって言わないんだなあ。
じぃっと座って治癒を待つ。

水も飲まない食事もしない。
動くのが嫌なのだろうかと、口元に水や牛乳を持っていっても、無表情で明後日の方向を見るだけだ。

ただ、じぃっと、座っている。

私はそれから、仕事などをし、夕方に一度眠った。
そして今起きた。午前零時である。
すぐにパセリを見る。
まったく位置が変わっていない。
まだ水も食事も摂っていないのだろうか。
しかし、ほんの少し、リラックスした態勢だ。

私は身体を起こし、PCの前に座る。
パセリのために、クーラーはつけていない。汗で前髪がおでこに張り付いているのが気持ち悪い。
ベッドを振り返る。

あ。
立ってる。

パセリは、私の動きにつられたように、その場でチョコンと立っていた。
にゃあああ。
やさしく撫でてあげる。
ほんの少しだけ、治ったのだろうか。
なでなで。良い子だ。

パセリはそれから、またその場に座り込んだ。
そして、PCに向かう私をじっと見ている。
私はこの子のことが本当に好きだ。

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