動く、そして暖かい

涙が出そうにもなった

それは大げさではない

その心臓は規則正しく動いていた

その寝息がかすかに腕にかかっていた

黒くて小さくて柔らかい

にゃん 短く鳴いた

寝ぼけてる 愛してる 生きている

冬の始まり

朝一番に窓を開け

冬の始まりを知った

新聞を取りに玄関へ出る

昨日と変わらないはずの鳥の声

青空を見せない低い雲

体に冬が忍び込んで

ふいに記憶をよみがえらせる

いつか受けた痛み哀しみ

今日はそれらを空へ放そう

大人たちの会話

それらは本当の言葉じゃなかったから
今はどこにも残っていない

それらは私を動かさなかった

たぶん他のすべての人も動かしていない

だから消えた

そういう言葉が続くことに

やがて疲れ切ることもわかっている

ではあの空間の意味は何だろう

名前

自分の名前を思い出せない
どこから来たのか

どこへ行くのか

私はもはや人間ではない

人間には知識がある思考がある

私には何もない

漠然と切なさが漂っている

私は切なさに近い生き物になってる

それは既に哀しみですらない

雪が降らないかなあって
思ってしまった

蒸した残暑の夜

発情した猫の鳴き声

真夏とは違う虫の声

たとえば今 雪が降ったなら

首が固まってしまうまで

上を向いて、口をぽかんと開けていよう

誰も見てない真夜中の出来事